異なる職種を経験して前職に

前職は美容師をしていました。10年間続けて店長を任せてもらえるほど出世していましたし、たくさんの指名客もいました。美容師は技術さえ上手であればやっていける仕事と思われがちですが、最近は接客も重視されてきていて、技術と同じくらい接客を重視しなければ指名客をたくさん増やすことはできませんでした。

私は技術には誰よりも自身がありましたが、接客面では自信がありませんでした。それと美容師だからと言って先生ともてはやされる時代ではなく、わがままなお客様に対しても低姿勢で接しなければいけない辛さがありました。どれだけ低姿勢で謙虚にお客様に接してもたくさんのクレームがあり、店長という立場上クレームの処理をしなければならなかったのですが、理不尽なクレーム処理に疲れ果て、人と全く接しない職業に就きたいと思い転職に踏み切りました。

新たな転職先は洋服のピッキング作業です。レーンに待機して箱づめされて流れてくる洋服の検品と値札をつける仕事です。仕事中は一切人と話すことはなく、接客業に疲れ果てていた私には向いていると思い働きました。立ち仕事という面では美容師と変わらないので辛さはありませんでしたが、仕事をいくらこなしても次々流れてくる洋服の箱は正直うんざりしました。

人と接するという面では、美容師とは全く違うものがありました。ピッキングの仕事は比較的簡単なので、何歳になっても誰でもできる仕事です。ですから、仕事をしている人間は、子育てを終えて働き始めた人など年配の人ばかりでした。年配の人たちは、職場の主のようになっていて誰も逆らう事ができないような感じになっていました。

美容師は空いた時間に隙を見て1人で食事をしていましたが、ピッキング作業の現場は12時に一斉に休憩に入るため年配スタッフと一緒に食事をするのですが、年配スタッフの機嫌を損ねないように気を使わなければいけませんでした。食べる時間も合わせなければいけないですし、自分が思っていなくても会社の悪口に付き合うのは大変でした。昼休憩の45分間と、途中休憩の15分間は本当に苦痛でした。

ただ、休むことに関しては簡単にできたので驚きました。美容師の仕事は自分が1日休むと20人近くのお客様の予約をキャンセルしなければいけないので、容易には休むことができませんでしたし、どうしても休む場合は上司にこっ酷く叱られたものでした。祖父が死んだ時ですら休みをもらう事ができず、仕事が終わってから駆けつけていました。

ピッキング作業の会社は当日電話一本で簡単に休むことができました。福利厚生など社会的な面ではピッキング作業の方がきちんとしていました。美容院は個人の経営ですので、税金対策の為か社会保険になったり国保になったりと経営者のやり方に振り回されてきましたが、ピッキング作業の会社はきちんとした決まりの元コロコロ変わるようなことはありませんでした。

全く別の職種を経験して分かった事は、誰でもできる仕事をするよりは自分にしかできない仕事をした方がやりがいがあるという事です。せっかく免許を持っているのだからフルに使うべきだと思いました。美容師は時給に換算すると時給2000円くらいですが、ピッキング作業は時給700円程度にしかなりません。決して楽な仕事とは言えないピッキング作業でもこれだけの時給しかもらえません。時給を稼げる人間は稼ぐべきだと気づきました。誰でもできる事ではありません。接客に関しても同じ人に気を使うにしても、この人に気を使う事で給料がもらえると思えば割り切って我慢はできますが、気を使っても何の得にもならない気づかいならしたくありません。仕事をするためにどうせ誰かに気を使わなければならないなら、接客で気を使っていた方がましです。私は全く違う職種を経験してみて、美容師の素晴らしさ、楽しさに気付き美容師に戻りました。